2016年11月の公開からじわじわと反響を呼び、映画祭などで多くの賞を受賞している映画「この世界の片隅に」
7月15日よりTBS21時からの日曜劇場枠で、松本穂香・松坂桃李主演でテレビドラマがスタートし、まだまだ注目が続く作品です。
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あらすじと見どころ
時代は1930年半ばから 第二次世界大戦が激化していく1945年、軍港のある広島県呉市を舞台に、「すず」という一人の女性とすずをとりまく人々の日常を描いた作品です。
丁寧な時代考証をもとに、戦時下の普通の人たちがいかに工夫を凝らしながら暮らしていたかが描かれています。戦争という暗いイメージとは裏腹に、ほのぼのした登場人物や、色があふれ笑いのこぼれる日常の生活がとても印象的です。
物語の前半では、絵が上手でのんびりやの幼かったすずが見知らぬ土地にやってきて、北條家のお嫁さんとして、周作の奥さんとして頑張る姿がほほえましいのですが、後半にかけては戦時下ゆえの緊迫したシーンや、親しい人身近な人との辛い別れなど、穏やかな日常に少しづつ戦争が入り込んできたのをよりリアルに感じます。
ここからネタバレが含まれます
私は戦争ものだと敬遠せずぜひ女性に観てほしいと思うのです。
その理由を説明する前に映画の中にいくつか謎があります。
・子供時代、草津のおばあちゃんちで出会った座敷童
・裏が隅が四角く切り取られている周作のノート
・すずの手提げに入っていた口紅
など、気にしなければそのままスルーしてしまいそうですが、「すずさん口紅持ってた!」と、突然出てきた口紅が私はすごく気になってしまいました。
上に挙げた謎には共通点があって、いずれもリンという女性なしには存在しないものです。(座敷童にいたってはリンそのものですが^^;)
映画ではリンはあまり出てきませんが、実はこの物語のとても重要な人物なのです。
過ぎたこと、選ばんかった道
リンは周作が見初めた女性で、周作の奥さんになっていたかもしれない人物です。
リンのほうにその気があったかどうかは定かではありませんが、周作がリンの事を好きだったのは間違いありません。結婚の話が出ていたであろうことも径子のセリフからもうかがえます。
映画では周作とリンの関係には気づきにくいと思います。
というか、この関係性については大幅にカットされています。
私はどうも腑に落ちない前述の謎や、登場人物のセリフに違和感を感じて、原作の漫画のほうを読んで納得しました。
原作ではリンと周作の関係に気付き、自分の居場所や"代用品"について思い悩むすずが描かれています。
すずと幼馴染の水原哲、周作と遊女の白木リン、この四人の出会いと別れがあってこそ、この作品のタイトルになったすずのセリフ、
『周作さん、ありがとう この世界の片隅に うちを見つけてくれて』
につながっているんですね。
白木リンという少女の物語
映画のエンディングとは別に、クラウドファンディングの支援者のクレジットにリンの生い立ちが描かれました。
これは原作の漫画の中に描かれていたもので、リンが幼いすずに出会ったくだりやその後すずと再会するまでがスケッチ画のように描かれます。
失ったすずの右手がリンの生い立ちを描くという演出も深く、やはりリンの存在なくしては成立しないのだと感じさせられます。
偶然か必然か重なった二人の人生、最後ですずとリンが寄り添う姿に涙が止まりませんでした。
黒村径子( 周作のお姉さん)の物語
もうひとつ個人的にとても心に残ったのは、周作のお姉さんであり、すずの義理の姉になる黒村径子です。
いかにもいじわるな小姑という感じの径子は、性格の全く違うのんびりやのすずにあたりが強く、晴美を亡くしたときも右腕を失ったすずに非情な言葉を浴びせます。
ただ、径子が生きてきた半生を語りすずに謝罪するシーンで一気に見方が変わりました。径子は客観的に自分を見つめ、人を思いやれる強さと優しさを持った女性なんです!
径子もまた戦争に翻弄された一人で、その人生の物語を知ると切なくなります。
子供のいる私は気持ちも分からなくもないので、径子がらみでかなり泣いてしまいました(涙)
すず、リン、径子
それぞれ違う3人の女性の人生を思うと、何が幸せなのか考えさせられてしまいます。
おしまいに
映画の限られた時間の中で伝えきれていない部分は、やはり原作の漫画なしには語れないと思います。
あと、広島県出身の私にはとっては嬉しくなるほどのバリバリの広島弁も、他府県の方にしてみれば分かりにくいかもしれません。そのあたりも、漫画のほうでは注釈が書かれているので、やはり原作はぜひ見ていただきたい。
広い世界、とある時代のとある町の片隅で出会った人と人とのつながりや葛藤を描いた作品。これからの北條家の行く末を感じさせてくれるあたたかなエンディングもとても良かったです。
ただの戦争ものとしてでなく、夫婦や家族の物語として見てもらいたいです!